■収録レポート
この日の収録の冒頭で、『Spicy Sessions』初のライブイベントを2025年10月24日(金)に神奈川・KT Zepp Yokohamaで開催することが、MCの黒沢薫(ゴスペラーズ)、中西アルノ(乃木坂46)から発表された。サプライズの告知に沸く客席。観客の顔をしっかり見ながら、2人は感慨をこう言葉にした。
“ついにですね、嬉しいです。この番組で培ってきたものが大きいので、これまでの集大成になるようにしたいです”(中西)
『Spicy Sessions』は、音楽が生まれてくる様子とその感動を観客と共有する、これまでにないスタイルの音楽番組だ。“絶大な信頼がある”とMCの2人が話すバンドメンバーとともに、ゲスト、そして黒沢、中西が作り上げていく音楽は、まさに生き物。音の欠片(かけら)という細胞がくっつき、変貌しながら、はっきりとした輪郭を見せ、曲になっていく様子。そして、予定調和のないスリリングさは、この番組の醍醐味だ。今年に入ってからは、MC2人とバンドが阿吽の呼吸で作り出すグルーヴに、揺るぎない根幹が出てきている。この番組のムードを司るMC2人にも、経験からの余裕が出てきていて、セットチェンジの間に客席へと声をかける姿もたびたび見られるようになり、会場全体をリラックスさせている。リラックスするということは、つまりフラットな状態になること。観客はほぼ素の状態でセッションを体感できる。そして、そのセッションは、音楽の息吹と輝きを体現しているのだ。これまで幾度となく音楽の輝きをさまざまな形で見せてくれた『Spicy Sessions』は、セッションを通して音楽を体験させてくれる番組である。音楽そのものが持つエネルギーをしっかり体現している音楽番組は、やっぱりほかにないと改めて思うのだ。
本稿では第19回目、第20回目の収録レポートに加えて、収録後の黒沢薫、中西アルノのインタビューをお届けする。
8月放送分、19回目のゲストはセントチヒロ・チッチ。拍手と大歓声の中ステージに登場すると、ソロプロジェクト・CENTとして8月20日にリリースしたメジャー1stミニアルバム『らぶあるばむ』から、「ラブシンドローム」を披露。“いろんな恋愛の価値観や愛の形がある中で、「好き」っていう気持ちを詰め込んだポップでハッピーな曲”と自ら紹介。歌唱後には“バンドさんと歌うのが楽しくて、……イェーイ!”と喜びをはじけさせた。黒沢と同じ東京・八王子の出身というセントチヒロ・チッチ。2人はカレー好きのアーティストで結成されたバンドのメンバー同士でもある。歌唱を終えたチッチに、“心にロックを飼われていて、それが歌声に出ている”とコメントをしたのは中西。さらにチッチが在籍していたBiSHと乃木坂46は対極の存在と述べた後“だからこそ憧れがあった”とも。この言葉にチッチは“今日も心にロックを飼っていきましょう”と笑みを見せた。BiSH時代からCENTとしてソロ活動をしている彼女。“ソロは自分の表現やカルチャーをそのまま発信できる”と語る。
人前で初めて歌った記憶は、保育園の頃。その時に歌っていたPUFFYの曲を歌いたい、とチッチ。すかさず黒沢が“俺は休んでるね”と笑いを誘う。チッチと中西でPUFFYの「愛のしるし」を歌うことになり、ステージ上に楽曲の資料が持ち込まれる。いつもはここで黒沢が歌詞を見ながら歌割りやコーラスを決めていくが、この日は違っていた。“打ち合わせから任せたよ。2人でやった方がいい”と黒沢。“えー!”と驚きながらも、即座に赤ペンを持ってチッチと相談を始める中西。“ここまではユニゾンで(中西)”“ここハモ入りますか?(チッチ)”と、ゲストと打ち合わせを進めていく中西の姿は、彼女の進化を物語っていたと思う。歌唱後に“可愛いのでチラチラ見ながら歌っちゃいました”と中西が言えば、“同じことを思ってました”とチッチが返す。その様子に会場の誰もが笑顔になっていた。
続くトークコーナーでは、黒沢が“僕の中でチッチさんはロックなイメージがある”とコメント。黒沢も中西も、多彩なゲストのヒストリーや楽曲を聴きこんで毎回の収録に臨んでいる。特に黒沢は、音楽リスナーとしてはマニアックな雑食系。自身のルーツミュージックをしっかりと持ちながら、今、世の中で鳴っている曲も当たり前のように聴いている。『Spicy Sessions』がスタートしてからは、掘り下げるまでには至らなかった(本人談)J-ROCKなどもいろいろ聴くようになったそうだ。幅広いジャンルのゲストが登場する『Spicy Sessions』。その幅をさらに広げ、楽曲の説得力が増すようにジャンルを理解する。歌以外、もっと言ってしまえば、収録に対してのアクション以外にも、黒沢薫はしっかりと『Spicy Sessions』を支えているのだ。
チッチと黒沢でTHE BLUE HEARTSの「青空」をセッションすることに。歌割りをしながら“すごくいいメッセージ。今こそ歌いたい”と話した黒沢にチッチが深くうなずく。ステージ後方では、バンドメンバーが会話をしながら演奏を固めていく。歌い終えた後、“(心の中で)詰襟(つめえり)着てました”という黒沢の言葉に“詰襟って何ですか?”と屈託なくツッコむチッチ。その姿に彼女の愛らしい人柄が表れていた。
チッチが中西とのセッション曲に選んだのはBiSHの「スパーク」。BiSHが活動初期から大切にしてきた、ファンからの人気も高い1曲だ。早速セッションの準備にとりかかるステージ上の面々。この選曲に“すごく素敵な曲で、大好きになりました”と中西。メロディの高低差が激しく、それがBiSHの楽曲の特徴でもあるが、低音パートを歌う中西の貴重な姿、そして歌唱後に“大感動してます、私!”とチッチが気持ちを高揚させた「スパーク」のセッションは、ぜひ放送で確認していただきたい。
最後は、中西のリクエストを受けて、黒沢がソロでポルノグラフィティの「アゲハ蝶」を披露。原曲が持つスパニッシュな雰囲気を活かしつつ、レゲトンのフレーバーを加えたアレンジは、黒沢からバンドへのリクエストだったという。イチ音楽リスナーとして、レゲトンへの解釈が足りなかったと反省してディグり直したのは個人的な話だが、みなさんも『Spicy Sessions』で見つけたルーツの雫から、音楽の源泉をディグってみてはいかがでしょう? 楽しいことこの上ないですよ。
前回はピアノ伴奏で参加した佐藤雄大と、黒沢、中西の3人だったが、今回は通常回と同じバンド編成。収録がスタートする際のバンドセッションは、ゲストの音楽性を踏襲していることが多いが、この日のバンドセッションはいつも以上にエモかった。一言でいえば「永遠(とわ)に」と「Actually...」のマッシュアップ。前者はゴスペラーズのヒット曲。ハイトーンが曲のポイントで、この曲でメインボーカルを務めているのが黒沢。後者は乃木坂46の楽曲で、中西が初めてセンターを務めた曲である。テンポもキーも違う2曲のキラーフレーズを残して、聴き応えのあるサウンドにしたあたりに、佐藤らバンドメンバーからMC2人への愛とリスペクトを感じた。
今回の特別回を収録するにあたり、番組公式Xで“MC2人に歌ってほしい曲”を募集。「#SpicySessionsリクエスト」のハッシュタグでポストされたリクエストは1,500曲を超えたそうだ。筆者も募集期間中、ハッシュタグを何度か覗いたが、洋楽邦楽問わず、さまざまなジャンルの楽曲が集まっていた。黒沢のソロ曲、ゴスペラーズの曲、乃木坂46の曲もあった。歌い手としての2人による化学反応が観たいんだろうなと思わせる選曲や、純粋に好きな歌を2人の歌声で聴きたいのだなと思わせる曲など、ポストを見ているだけで、『Spicy Sessions』が丁寧に伝えてきた“sessionの楽しさ”が、音楽ファン界隈に浸透していることを感じた。
寄せられたリクエストをもとにMC2人とスタッフが事前に打ち合わせをし、それを経て厳選した20曲のタイトルと歌手名が書かれたパネルがステージに運び込まれる。曲名を見ながら、1曲ずつ想い出や印象を述べていく黒沢と中西。その中には、中西が“小学校の「朝の歌」で歌っていた”と明かす意外な洋楽曲もあった。
リクエストの中から選ばれたもう1曲は、ロゼ&ブルーノ・マーズ「APT.」。配られた楽曲の資料を見て“すごい! 歌詞がびっしり”と目を丸くする中西。“ハモっているのはサビだから。お試しでやるなら2サビだね”と、黒沢。バンドとも話を進めながらも、まるで楽屋にいるような2人のトークが展開していく。歌詞を見ながらではあるが、ブルーノのパートをよどみなく歌う黒沢に“完璧だ”と声を上げる中西。近くのスタッフにも“絶対に歌ったことありそう”とツッコまれると、“これはね、歌いたいの”と笑みを浮かべながら続きを歌う黒沢。客席からは笑いと拍手が。“この曲を前から歌いたくて、韓国出身の友人から「APT.(アパツ)」の発音を教わっていたんだよ”という黒沢が、発音をその場でレクチャー。バンドもコーラスの練習に入っている。全員本気で、昨年リリースのグローバルヒット曲を『Spicy Sessions』に寄せようとしている。歌いたい、歌うためには自分の中で咀嚼する。黒沢を筆頭に、中西、バンドメンバーのDNAに、それがすっかり染み込んでいるといった印象だ。そして披露された「APT.」は、観客もステージも過去最高のテンションで盛り上がった。