
左から、黒沢 薫、majiko、中西アルノ
CS放送『TBSチャンネル1 最新ドラマ・音楽・映画』にて毎月放送中のゴスペラーズの黒沢 薫と乃木坂46の中西アルノがMCを務める音楽番組『Spicy Sessions』(スパイシーセッションズ)。2026年5月30日(土)放送『Spicy Sessions with majiko』の収録を、ゴスペラーズをデビュー当時からよく知り、数々のアーティストのオフィシャルライターを務める音楽ライターの伊藤亜希が取材。番組の魅力を紹介するレポートの第15弾を、MCのインタビューと合わせてお届けする。
刺激的な音楽番組『Spicy Sessions』は、セッションを通してさまざまな“音楽の瞬間”を見せてくれるプログラムだ。MCを務める黒沢 薫(ゴスペラーズ)と中西アルノ(乃木坂46)が、ゲストやバンドメンバーと歌で会話する瞬間、既存曲の新たな表情が見える瞬間、そして音楽が生き物であることを証明する瞬間。その場で立ち上がる瞬間の積み重ねが『Spicy Sessions』という番組を形成している。だからこそ、放送開始から2年半が経った今も、観覧客や視聴者に刺激を与え続けているのだ。そして、会場全体で立ち上げる熱量が、この番組最大の魅力になっている。今なお増えているスタジオ観覧の応募数は、熱量が広がり続けている証拠と言えるだろう。
27回目の放送となる今回のゲストは、シンガーソングライターのmajiko。歌声に“透明感”と“痛み”が同居する表現力で国内外から支持を集めている。ニコニコ動画に投稿した“歌ってみた”動画で注目され、現在はシンガーソングライターとして活動中。近年ではアジア圏でも高い人気を誇る。中西が“ぜひ来てほしい”と熱望していたこともあり、本番前からいつもとは違う高揚感が現場に漂っていた。
Spicy Sessionsバンドによるオープニングセッション。曲調はダウンテンポの重めのビート。ブルーとパープルのライトが交差する。MCの2人がステージへ。黒沢はバンドマスターの佐藤雄大に視線を向け“Good Job!”と言いたげに頷く。majikoが呼び込まれ、恐縮した表情でステージに姿を現す。大きな拍手と歓声が飛ぶ。“アルノちゃんが出演するドラマのエンディングテーマを歌います”と、majikoが「クライクライ」を披露。伏目がちに話す様子から一変、真っ赤に染まったステージで、迫力あるシャウトを響かせるmajiko。低音からファルセット、ヘッドボイスまでボーカリストとしてのスキルを連発し、観客も息を飲むように聴き入る。歌い終わると“何なのあなた! すごいね!”と黒沢。中西は“私、小5で見つけたんですよ! そこから、ここに辿り着いて嬉しい”とコメント。“小5で見つけたら衝撃的なんてもんじゃないよね”と重ねた黒沢に、中西は“そうなんです。今日までひきずってます”と返し、観客とmajikoを笑わせた。“majikoさんがいなかったら、歌を歌っていなかった”という中西に“そんなこと言われたら……嬉しくてたまりません”とmajiko。歌とトークで見せる表情の違いに驚く黒沢とは対照的に、中西は“カオス回になるなと、楽しみにしてきました”と、いたずらっぽく笑った。

オープニングトークの様子

「クライクライ」majiko
最初のセッション曲は、majikoの学生時代の思い出の曲、ポルノグラフィティの「ミュージック・アワー」。majikoからセッションの指名を受けた黒沢は“リズムが独特。でも歌うと楽しい曲”とコメント。早速バンドとの打ち合わせに入る。キーボードを担当する佐藤雄大と転調のタイミングなどを話している様子を見て“うわぁすごい!”とmajikoが目を丸くする。歌割りを決める場面でのmajikoと黒沢のやりとり。“リード、僕が歌います”“ぬわぁ~、はい”“ここ、僕がハモります”“ありがとうございます! じゃあここ、追いかけてもいいんですか?”“もう全然!自由に!”。majikoからの提案でサビの手振りを観客と一緒にやることに。さらに黒沢が“音源ではオーバーダヴ(=オーバーダヴィング/声を重ねて録音すること)してるところを僕が1人でやる”と、とんでもないことを言い出した。複数重ねられた声を1人で再現しようとしている。机上論ではなかなか成立しない方法だ。当然majikoも“え?”という顔に。“上下を交互にハモる”と黒沢。メロディに対して、上ハモと下ハモを交互にやるということだ。“すごっ、やば!”とmajikoが興奮した表情を見せる。majikoのワクワクが、観客にも伝わっていく。イントロから観客のクラップが起こった「ミュージック・アワー」。間奏で楽しそうに踊るmajikoの姿に、音楽が本当に好きなんだろうなと誰もが思ったのでは。歌唱が終わると大きな拍手。“majikoさんに振り回される黒沢さん”という中西のコメントに会場は大爆笑となった。

セッション前の打ち合わせシーン

「ミュージック・アワー」majiko×黒沢
続いて、majikoが中西とのセッション曲に選んだのは、一青窈の「もらい泣き」。譜面が運び込まれ、セッションの準備に入る。中西はmajikoと歌割りの相談。黒沢はバンドとアレンジの相談。今年に入ってから定着し始めた、『Spicy Sessions』らしい光景だ。以前は、黒沢がバンドと話しながら中西とゲストのセッション曲の譜割りを決めていた。両方の様子を見るために、黒沢はいつも客席から見ると横向きになり、それぞれと言葉を交わしていた。それが今は、背中を向け、中西に歌割りを任せている。小さなことかもしれないが、黒沢の身体の向きが、中西への信頼感の現れだと思った。majikoと中西は、ステージの中央で譜面を見ながら話している。majikoがしゃがみこみ“アルノちゃんが先に……1番は全部アルノちゃんがやった方が……”とリクエスト。それを受け止めながら、中西もmajikoへさまざまな提案を返していく。緊張するゲストの実力を引き出し、新しい扉を開ける環境を整えるのも、MC2人の大切な役割だ。時間の経過とともに、ゲストがどんどん解放されていく。その様子もまた『Spicy Sessions』が築き上げてきた、尊い瞬間の1つだ。セッションの準備が整い、“頑張りましょうね”とmajiko。“めちゃくちゃ緊張してます”と中西。そして2人同時に“どうしよう”とユニゾン。続けて、majikoが中西をチラリと見て“吸い込まれそうになっちゃうんだよな。なんでそんなに目が綺麗なんだぁ!”というと、客席から笑いが起こる。2人の緊張の糸がふっと緩む感じがした。
異なる透明感が共鳴し、“感情の器”になった「もらい泣き」のセッションは、ぜひ放送で確認していただきたい。歌い終え、majikoは“デートした気分になりました。ありがとうございます”とコメント。黒沢は“いろんな「もらい泣き」を聴いてるけど、フレッシュな「もらい泣き」でした”と感想を述べた。

相談しながら歌唱パートを割り振る2人

「もらい泣き」majiko×中西
majikoが“すごく大事にしている曲。お2人と一緒にやったら、1人ではできない表現ができるのでは”と、MC2人と歌う曲に選んだのは、majikoの「エミリーと15の約束」。majikoにとって大切な曲だということを知っていた中西は“その曲をここに持ってきてくれたことが嬉しい”と感動の表情を浮かばせる。セッションが始まる。間奏で天を仰ぐ中西の姿に、さまざまな感情が滲む。幸せを噛み締めているようにも見えた。大サビの高音域では、中西がチェストボイスを披露。終わった後、客席から喝采が送られる。“嬉しいよぉ~”と言葉を絞り出すmajiko。オクターブを行き来しながら細かくハーモニーを効かせた黒沢が“俺が必死すぎたけど大丈夫?(笑)”と言うと、“めちゃくちゃカッコよかった”とmajiko。そして“貴重な体験をさせていただいて光栄です”と続けた。“こちらも力をもらいました”と黒沢。この番組がもっと大きくなった気が、と話す黒沢に、“もっといけぇ~!!”とmajikoがエールを送った。
番組ラスト、中西がソロ歌唱曲として選んだのはさユりの「ミカヅキ」。中西はこの曲についてこう表現している。
“初めて聴いた時に、自分自身だと思った。こういう曲で救われる人間もいるんだぞっていうのを出せたら”
歌い始めた瞬間、想いの込められた歌声が響き、中西のこの曲に対する解像度の高さが伝わってくる。彼女自身の現在地が色濃く滲んだボーカルだった。

「エミリーと15の約束」majiko×黒沢×中西

「ミカヅキ」中西
冒頭でも述べたが、『Spicy Sessions』は、セッションを通してさまざまな“音楽の瞬間”を目の当たりにできる番組だ。この日は、音楽によって“歌い手が変わっていく瞬間”にも立ち会えたのではなかろうか。歌唱前の打ち合わせはあれど、MC2人のアドリブが増えてきたように感じる。歌い手同士、もしくは歌い手とバンドのアドリブの応酬は、セッションというスタイルの醍醐味の1つだが、『Spicy Sessions』においてアドリブとは、自分を見せるためではなく、曲そのものの熱量を高め、伝えるためのものなのだ。また新しい“音楽の瞬間”を見つけた今回の収録だった。
収録直後の黒沢 薫と中西アルノにインタビューを行った。
――中西さんの念願が叶い、majikoさんがゲストでした。
中西 ずっとお会いしたいと思っていた方で、本当に念願叶ったんです。すごく嬉しいです。お話している時と歌っている時のギャップ……という言葉で片付けていいのかわからないくらいの歌の存在感。
――そう思います。“ギャップで片づけていいのかわからない”って、まさにそうだと思いました。リスペクトとホスピタリティの両方を感じました。
中西 心からリスペクトしていて、いい意味でなんですけど……音楽しかないって感じで生きてこられたその生き様を、とてもカッコいいと思っていたんです。話している時は可愛らしさもあって、でも歌えば、何て言うんですか……こう……ぶん殴られるような。
――(笑)。本当そう。聴きながら、これ、自分の息止まっちゃいそうと思う瞬間が何度もありました。
中西 そういう迫力、説得力。それを隣で聴けて本当に嬉しかったですね。
黒沢 納得せざるを得ないっていうね。もう隣であの声出されたら。だって、1曲目入るまで、これまでの『Spicy Sessions』の収録の中で、1番、俺、不安だったから。アルノさん頼んだよって思ってた。でも、最初の曲がバンって入った瞬間に、majikoさんは歌がちゃんと聴かせられれば、それでいいんだなって思ったんですよね。有無を言わせぬ実力っていうのは、やっぱりいいもんだな。横で見ていて、そこにまさにグッときたわけでしょ?
――中西さんが小5の頃に、ニコニコ動画でmajikoさんを見つけたってエピソードにも驚きました。
中西 そうですね。ポルノグラフィティを知ったのも、majikoさんが歌ってたからなんです。
黒沢 そう考えると、アルノさんにとってmajikoさんの存在は本当に大きいんだね。
中西 はい。majikoさんがいなかったら歌ってなかったと思います。
――majikoさんと中西さんの「もらい泣き」は、2人ならではのセッションに感じました。
黒沢 アルノさんって自分が先出しするよりも、相手が歌ったものに対して後乗りする方が上手な方だと思うんですけど、最近は先出しも強くなってきているので、共鳴できるようになってますよ。番組が始まった頃からしばらくは、基本的には後からゲストに乗っかっていくっていうのが多かった。でも今は逆にゲストもアルノさんの歌に対して乗っかって、その上で、さらにそこにアルノさんが乗っかるという相乗効果ができるようになっている。これはもうアルノさんの実力が上がったからです。
――確かに。中西さんと歌っていく中で、majikoさんの声がどんどん変わっていくように感じたんですよ。歌っている間に、クリアになっていくような。
黒沢 それ、僕も思いました。ちゃんと共鳴して、2人でひとつの曲を作ろうとしている。それこそ歌で会話をしながら、そうなっていってるんですよ。すごく良かったよね「もらい泣き」。
中西 憧れの人と一緒に歌うし、歌い出しってことで緊張もあったんですけど、前よりは、それこそ黒沢さんに言っていただけたみたいに、飛び出せる力がちょっとついたかなというふうにも思いました。
――あと「エミリーと15の約束」を歌う、3人の声の張り方にも驚かされました。
黒沢 僕ね、あの曲、Aメロが自分には高いから、どれぐらいニュアンスを出せたかがちょっとわかってなくて(笑)。強くなりすぎちゃってたら嫌だなと思ったんですけど。大丈夫でした?
――えーと、サビにきたらドン!って印象でした。3人とも多分、楽曲に対する解釈の共通項があって、それがサビでドン!なのかな、と。これで回答になってます?
黒沢 なってます。そう聴こえたなら、大丈夫だったんだね。良かった。
――黒沢さん、ソロ歌唱じゃないのにあそこまで地声でバーンと歌うことって、今までの収録でありましたっけ?
黒沢 あんまりないかもね。そもそも『Spicy Sessions』は張り芸がメインじゃないから。ミュージカル系の曲ではあったけど、J-POP でこういう感じってあまりないかもしれないですね。「エミリーと15の約束」は、しみじみとした良い歌詞なんですよ。で、エモくなる瞬間の歌詞もすごく良くて。だからその良さを、この曲を知らない人にちゃんと届けたいなと思って歌いました。majikoさんとアルノさんと一緒に歌うと、どうしても異物っぽくなるので、どれだけスムーズに歌えるかっていうことも心がけましたね。だってアルノさんの憧れの人の歌に混ざった時、黒沢はいない方が良かったなって思われたくないじゃないですか。アルノさんにとっては、majikoさんが心の師匠なわけだから。
――実力があるからこそできる、ホスピタリティを感じます。いいお話、ありがとうございました。中西さん「ミカヅキ」を選んだ理由は? さユりさんの曲は以前もソロ歌唱されていますよね。
中西 前に「フラレガイガール」を歌った時、「ミカヅキ」を歌うという選択もできなくなかったんですけど、当時は自分自身がまだまだで、曲に持っていかれちゃうなと思ったんです。自分とすごく重ね合わせられるからこそ、そっちに持っていかれ過ぎると、歌が破綻してしまうんじゃないかと思ったんです。今回、ゲストがmajikoさんで、ルーツと思える方だから、そういう方がいらっしゃるんだったら、自分の人格形成に関わった曲を選びたいと思って「ミカヅキ」を歌いました。
――中西さんのその回答、もうつっこむところがない(一同爆笑)。だって今回の収録を見たら、今の言葉で誰もが納得すると思いますもん。
黒沢 それは、『Spicy Sessions』は、ハモリを無茶ぶりして、アルノさんが困りながら頑張るのを喜ぶ番組ではもうなくなってきているということに通じますね。ちゃんと音楽の音が真ん中にドーンってあって、それに対してMC陣がセッションしていくっていう、で、ゲストとバンドを含めて、みんなでいいものを作りましょうっていうふうに変わってきてるから。初回から比べると、バンドの演奏がもう全然違う。ちゃんとこちらを信頼している演奏になってるんですね。なんとか歌を立てなきゃいけないから、という置きに行く演奏じゃなくて、歌と会話をしに来ている。それで、我々は我々で楽しくやりたいようにやりますよ、みたいな。
――黒沢さん、自分に課すことが変わってきていませんか?
黒沢 最近、今回も含めてあまり歌っていないジャンルが続いてるからね。当然、歌い手として求められることが違ってくるから。そこは徐々にっていうより毎回変わってるけど……確かに、ジャンルが広くなっていくことで、新しい課題に向き合うことは多くなってますね。毎回、例えば武田と哲也みたいな(笑)、自分が得意とするジャンルだったり、自分のルーツにあるジャンルだったら、準備としてはラクなんだろうけど、でもそれだと、自分が面白くないのよ。僕にとって刺激になるのが『Spicy Sessions』って番組だから。本当、ラクせずにいきたいって気持ちがある。刺激、毎回をもらってますから。
――自分の新境地を見つけるのって、果てがないんだなと、『Spicy Sessions』での黒沢さんを見ていて思います。
黒沢 少なくとも32年歌ってきて、まだ飽きてないから。歌ってすごく楽しいものなんですよ、やっぱり。
『Spicy Sessions with majiko』
放送日時:2026年5月30日(土)23:30〜深夜0:30
放送チャンネル:CS放送TBSチャンネル1