■収録レポート
音楽が生まれる瞬間を観客や視聴者と共有する、これまでにないスタイルの音楽番組『Spicy Sessions』。「第15回衛星放送協会オリジナル番組アワード」のバラエティジャンルで最優秀賞を受賞したニュースも記憶に新しい。音楽好きたちの音楽に対する想いが作り上げてきた、番組の画期的な内容が認められた形といえる。ゴスペラーズの黒沢薫と乃木坂46の中西アルノがMCを務める『Spicy Sessions』は、放送スタートから1年半が経ち、今も進化を続けている音楽番組だ。この進化、そしてMC2人の心境の変化が、音楽が生きていることをそのまま体現している。
先日行なわれた第17回、第18回の収録の様子とともに、音楽に合わせて変貌し続ける黒沢薫、中西アルノのコメントをお届けする。奇しくも初回収録時を彷彿とさせる場面が重なった今回の収録で、2人は何を思い、どのような手ごたえを感じたのか。
6月放送分、17回目のゲストは今年3月にデビュー20周年を迎えた、韓国出身のシンガーソングライター・K。“ブラックミュージックがやりたくて日本に来た”というKは、その当時ゴスペラーズに会い“すごく嬉しかった”と振り返る。そんな彼が黒沢とのセッション曲に選んだのはスティーヴィー・ワンダー「Isn’t She Lovely」。歌詞を見ながら歌割りとハーモニーについて打ち合わせを始める2人。バンドマスターの佐藤雄大が曲の始まり方について質問すると、黒沢は“Kくんが歌い始めたら(それが始まり)。Kくんが4小節なら4小節、8小節なら8小節に”と回答。そのやり取りにKが笑顔を見せる。中西はタンバリンで参加することに。黒沢の“この番組史上、最速で始まるセッションです”という言葉を受けて披露された。続いては、レディー・ガガとブルーノ・マーズのデュエット曲「Die With A Smile」。世界中で大ヒットしたスケール感のあるバラードだ。Kが“3人で歌うバージョンは世界のどこを探してもない”と言えば、黒沢が“ずっとこの曲を歌いたかった。実は……アルノさんがこの曲を歌えるようになるまで待っていた。今ならいける”と本音を。この言葉に中西は“ハードル上げますね(笑)”と返し、会場を笑わせる。前回の収録でも中西は、黒沢を“師匠”と呼び、観客やバンドメンバーを沸かせていた。人見知りと自己申告していた彼女が、この番組で音楽を作り出す楽しさに触れ、緊張から解放されてきている証拠だ。歌唱中の表情も艶っぽさを増している。3人でのセッション、そして原曲にはない歌声が溶け合う様を目の当たりにした観客から、鳴りやまない拍手が送られる。黒沢がKとのセッション曲に選んだのは「Friends before Lovers」。黒沢と妹尾 武(ゴスペラーズの「永遠(とわ)に」などの作曲者)が作曲したKのオリジナル曲だ。歌唱後、両手でがっしり握手をした黒沢とK。Kからは“涙が出そう”という感想も漏れた。中西が自身のソロ歌唱曲としてセレクトしたのは東京事変「修羅場」。“バンドがカッコいい曲を選んだ”という中西の言葉に、感動する表情を見せる黒沢とバンドメンバー。黒沢が“(間奏で)バンドメンバーの紹介もね”と念押し。さらに、“バンドを従える感じで”というアドバイスに“頑張ります!”と笑顔で返す中西。いざ本番。中西は、それまでの楽曲に対するアプローチから一転、言葉と言葉をスムースにつなげてグルーヴを出すボーカルアプローチで、ボーカリストとして進化した姿を見せた。
収録後の黒沢 薫、中西アルノに話を訊いた。
――セッションをしている時、お2人はどんなことを考えているんですか? 例えば「Die With A Smile」とかは? Kさんも含めて、アイコンタクトする場面もありましたね。
黒沢 アルノさんに対してはもう、本当に正直“どうぞ、頼りにしてますよ”って思っていますし、アイコンタクトで“思いっ切り行ってね”と思いながら歌っています。
中西 私の中で少しずつできるようになってきたとはいえ、不安もまだまだ大きいので。でもなんかやっぱり……歌いながら“師匠、ここはこうで大丈夫ですか?”って思いながら歌っています。
――“師匠、さっき言ってたの、こういう感じですよね?”みたいな?
――そういえば、そういうシーンが収録中になくなりましたね。
黒沢 でしょう?(笑) もう簡単にイメージを伝えただけで、ちゃんと乗っかってきてくれることがわかっているから。バンドメンバーも含めて、本当に楽しく音楽を奏でられるようになってきたなと思っています。2人、あるいはゲストを含めた3人の歌を作って、それを歌いながら僕自身も楽しんで聴いているっていう感じ。安心感があるから、僕も楽しめるんです。
黒沢 それは嬉しいですね。おっしゃる通り、楽曲へのアプローチの仕方が増えたと思うんですよね。『Spicy Sessions』を通して、これまで僕自身があまり触れてこなかったようなジャンルの歌を歌うことも新しい経験になっていると思うんです。この年齢になって新しい経験をさせてもらえるっていうのは、本当にありがたいことで。
中西 毎回、いろんなことを黒沢さんから教えてもらうんですけど、それとはまた別に、自分で受け取って感じることも大きくて。「Die With A Smile」も「修羅場」も、これまでのこの番組のいろいろな積み重ねがあったからこそ、出てきたアプローチだと思うんです。
中西 そうですね、私の修行の場っていうのは本当にそうなんですけど、黒沢さんも北京語で歌われたりとか、あえて上ハモでご自分の限界に近い音域に挑戦してみたりとか、横で見ていると、自分に“課している”と感じる場面がたくさんあるんです。本当に毎回、たくさんある。だから私にとって黒沢さんは師匠であり、ちょっとこう……私が言うのはおこがましいかもしれないですけど、一緒に戦ってきた同志であり仲間であり……みたいな気持ちがすごくあるんです。
黒沢 良かったよね。リハーサルより本番の方が何倍も良かった。アルノさんがバンドをひっぱる形じゃなくて、バンドの音に乗って歌っていた。
――そして18回目放送の収録では、番組史上初のマイケル・ジャクソンの曲も登場しましたね。まだマイケル・ジャクソンの曲をセッションしていなかったってことが意外でした。
黒沢 これまで何回か候補曲としてはあったんだけど、実際にセッションしたのは今回が初めてでしたね。外していたとかそういうわけではなく、結果として初めてだったんです。土岐さんってやっぱりすごく世界観があるから。そこを雰囲気とか世界観だけじゃなくて、彼女の歌を音楽としてしっかり紹介するっていうのが、テーマとしてあったんですよね。そこはちゃんとできたんじゃないかなと思います。
中西 「Human Nature」は、本当に土岐さんと黒沢さんの素晴らしさが曲を作っていたと思うんです。原曲とはまったく違う雰囲気だったので、驚きましたし、こういうところが、やっぱりすごいって思いますし、毎回楽しみなんですよね。
――中西さんに伺いたいことがあって。「ひこうき雲」を歌う前にちょっと触れられていましたけど、『Spicy Sessions』でMCをするようになってから、曲のディグり方とか変わりました?
中西 変わりましたね。ボーカルとか歌詞ばっかり見てたんですけど、この番組でバンドの音をすごく意識して聴くようになって。“うわ、このベース、カッコいいな”“ここのドラム、カッコいいな”とか、そういうところも楽しめるようになりました。それから、松任谷由実さんもそうですけど、作家さんとかで掘っていったりするようにもなりましたね。
黒沢 この発言が完全にね、いい音楽を探しているアーティストの発言なんですよ。
中西 本当に今はいろんなアーティストの音楽を聴いていますね。前はプレイリストのお薦めに出てきたアーティストから……ってことが多かったんですけど、今は、自分でアーティスト名を入れて調べることも多くなりました。
――そうですね。それがサブスクリプション音楽配信サービスの大きな特徴でもありますから。
『Spicy Sessions with K』
2025年6月28日(土)23:30〜0:30
2025年7月28日(月)23:30〜0:30
この番組は「スカパー!番組配信」にてPC、スマートフォン、タブレットでもお楽しみいただけます。詳細ページ